バンド名はおそらくイギリスの作家ライダー・ハガードからとったのであろう(『洞窟の女王』など書いた人)。このバンドが特徴的なのは総勢16人に及ぶメンバーの数だ。1991年にミュンヘンにてAsis Nasseri(ヴォーカル・ギター)とLuz Marsen(ドラム)によって結成され、デスメタルシーンで活躍し、デモテープなどを制作する。1995年、デンマークのバンドIlldisposedのツアーに同行、この時ハガードに転機が訪れる。ファン達の反応によって、大々的にクラシカルな要素を取り入れることを決意し、次第にメンバーを増やし、現在の16名に至る。1996年にSerenade Recordと契約し、1997年に最初のフルアルバムAnd Thou Shalt Trust...The Seerを発表。ギター、ベース、ドラム以外に、ピアノ、チェンバロ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ハープ、フルート、クラリネット、オーボエ、クルムホルン等々の楽器を使用し、デスメタルとクラシック音楽(とりわけ、中世・ルネサンス音楽)やトラッドが渾然一体となった音楽が生みだされている。ロックにクラシックの要素(楽器、フレーズ、音楽構造等々)を取り入れることは以前から盛んに行われており、近年のメタル・シーンでも当たり前に なって新味のない行為だが、メンバーに専属の奏者を有し、これほど本格的に中世音楽をデスメタルにフュージョンさせたバンドはまれではなかろうか。しかも、ハガードはプロジェクトではなく、まさしくバンドなんだとリーダーのAsisは繰り返し強調している。彼の言によるとハガードの音を一言で表わすならば、"metal meets classic meets medieval meets folk"になるそうだ。プログレファンにもぜひ聴いてもらいたい。なお歌詞は英語・ドイツ語・ラテン語を使用している。分量的には英語が一番多いのだが、ドイツ語も結構使っているということでここでとりあげた。
And Thou Shalt Trust... The Seer (1997)
日本でも有名な予言者ノストラダムの生涯をモチーフにしたコンセプト・アルバム。中世音楽(というよりルネサンスっぽい)やバロック音楽、トラッド風の楽曲に、メタルギターとドラム、ベース、そしてデス声男声ヴォーカル+ソプラノ女声ボーカルが絡み、さらにはシャレルヤ(Schalleluya: Schall+Halleluya?)合唱団(指揮Ulrich Hermann)によるコーラスが加わって、大袈裟かつ荘厳な雰囲気をもった音世界が現出する。イントロからして、アコースティックギターの爪弾きに、フルート、チェンバロが絡み、そして弦楽器が加わり、盛り上げつつも、いろいろな楽器の響きがが入れ替わり訪れ、デス声が咆哮するという好き者にはたまらぬ展開だ。全編メロディアスで美しい。デスメタルファンよりもプログレファンにうけそうだ。インストゥルメンタル曲の3曲めや5曲めなどはもろに室内楽という趣きがある。ライナーによれば、次のアルバムにはAsisの3歳の息子Robinがケトルドラムとタムタムで参加する予定だそうだ。まじか。ジャケットはデューラーの「メランコリア 1」だ。