ton steine scherben

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Ton Steine Scherben(以下TSS)は『ジャーマンロック集成』ではほとんど紹介されていません。(日本ではドイツロックがいかに偏った紹介しかなされてないかが分かります。日本においてドイツロックはプログレであり、エレクトロニックであり、サイケデリックでしかないのです!)。しかしTSSは、政治ロックの代表的バンドであり、70年代ドイツロックの偉大なバンドでした。Ihre Kinder 、Floh de Cologneなどとならんで、ドイツ語によるドイツ・ロックの誕生時を語る上で欠かせないバンドです。

特に、そのカリスマ的ヴォーカリストRio Reiserはその死後も絶大な人気と影響力を誇っています。Reiser(当時は本名Palph Moebiusを使用)は、1967年、最初のロック・オペラと言われるRobinson2000に参加。その後、演劇=音楽グループHoffmanns Comic Theaterに参加。1970年にシングル「Macht kaputt was euch macht/Wir streiken」を発表。その後すぐにTon Steine Scherbenに名前を変更します。1971年にはMacht kaputt was euch machtを含むアルバム『Warum geht es mir so dreckig?』を発表。過激な政治的アジテーションで名を馳せました。「音楽は武器だ (Musik ist eine Waffe.)」というスローガンが当時のTSSを象徴しているでしょう。アルバムを5枚出した後、1985年に解散。以後ライブ盤が出ました。解散後、Reiserはソロ活動を行ないます。1986年のシングル「Koenig von Deutschland」は大ヒットとなりました。

1996年8月20日Reiserは内出血で突然の死去。まだ46歳でした。多くのミュージシャンが追悼の言葉を送りました。以下は、シュピーゲル紙に載ったブリクサ・バーゲルトの追悼文から引用:「生の感情、行動、思想の直接的表現は単に政治的であるだけでない。Reiserはロックミュージックなるものの意味でもあるのだ。」

■cd
image Warum geht es mir so dreckig? (1971)
1971年発表の1stアルバム。客の声や拍手なども入っていてライブによる録音のようであり、録音はかなり荒いが、迫力のある演奏が聴ける。アジテートする歌詞が重要になってくるので、一度は歌詞に目を通すべきだろう。世代の断絶、日常の労働生活の苦しみ、奴隷商人批判、世界の変革、連帯等々、いかにも70年代政治の季節にどっぷりはまったテーマを、Reiserの感情を込めた力強い声が歌い、叫んでいる。なにはともあれ代表曲のひとつである4曲めだ。「我々を破壊するものを破壊せよ!」とアジるその叫びは聴く者の魂を揺り動かそうとするのか。クレジットされてはいないが「Macht kaputt, was euch kaputt macht」と「Mein Name ist Mensch」の間には、歌詞ブレヒト/作曲アイスラーの「Einheitsfrontlied(統一戦線の歌)」が収められていて、これはしばしばライブの最後で歌われたそうである。客のノリも最高だ。TSSを最初に聴くにはこのアルバムがいいと思う。 
image Keine Macht fuer niemand (1972)
TSS初期の名盤というだけではなくドイツロックの歴史的名盤。アナログの時は2枚組だったがCDでは1枚に収録。タイトルは、とあるアナキズム雑誌からとられたというが、実のところ意味はよく分からない。しかしこの言葉はスローガンとなる。力強いながら幾分一本調子で単調な感じがした1stに比べ、音楽的にも幅が出てきていて、余裕を感じさせる。キーボードも結構目立つし、曲によってはフルートやサックスなどを導入しているせいか、かなり多彩な音色を感じさせる。とはいえ、左寄りの闘争ソングが並んでいるのは相変わらず。タイトル曲はRAF(西ドイツ赤軍)に依頼された曲(ただし、RAFは曲の出来に不満で受け取らなかったという)。Rauch-Haus-Songは家屋不法占拠アジソング。その他、Wir muessen hier raus!、Der Traum ist ausなど名曲多数。
image Wenn die Nacht am tiefsten...  (1975)
2ndアルバムに続いての2枚組み3rdアルバム。2ndを出して以来しばらくライブを中断しており、1974年ライブ復活の時、メンバーはサテンやビロードの光もの衣装でステージに現われ、ファンを驚かせたそうだ。彼らによれば、「僕らはただの政治的ロックであることに抵抗があったんだ。僕らはひとつのロックバンドでいたいんだ」、だそうな。ともあれ、その主張はこのアルバムの音や歌詞にも反映している。ストレートで熱い1stに比べると一歩引いた感じがするが、各曲がバラエティに富み、手持ちの札が増えたようで、音楽的にも奥深くなった。名曲多数。一曲一曲の良さが光るとはいえ、アルバムとしてもまとまりが悪いわけではなく、しっかりとしたコンセプトを持っている。直接的で明確な政治的主張を叫ぶ歌詞が少なくなった代わりに、暗闇の中の絶望と諦念、そして、そこにかすかに見える一筋の光を歌う。「夜がもっとも深い時こそ、朝にもっとも近いんだ!」 。
image Vier (1981)
このあいだ(2001年春)の私のドイツ滞在中、Ton Steine Scherben と Rio Reiserのトリビュート・ライブ(Junimondというバンド)があったので行って来ました。石造りの地下倉庫をそのままつかったちいさな薄暗い酒場で、地べたに座ってビール飲みながら聴いたその最初の曲がこのアルバムの一曲目「Jenseits von Eden」(名曲です!)でした。タイトルどおりの4枚目のアルバムです。2枚組みです。硬質で、なんとなくモノクロームの印象がした一枚目とはかなり変化し、ポップでカラフルになった感じを受けます。よくもわるくも多彩な曲調が楽しめます。2枚組みです。いまだに根強い人気をもっているTon Steine Scherben、日本でももっと知られてほしいと思います。ふと思いましたが、ドイツの頭脳警察って感じですね。スタンスがよく似てます。一枚目はライブだし。
image Auswahl 1: 1970 - 1981 (1981)
1981年発売のベスト盤。しばらくの空白期間の後、4枚目のアルバムを出したところで、初期のTSSをふりかえるために出されたものだろう。とはいえ全10曲中アルバム未収録の曲が3曲入っている。デモテープ版の「Mein Name ist Mensch」、このアルバムの為の録り直した「Keine Macht fuer niemand」。そして一番の目玉はTSS最初のシングルB面の曲で実はアルバムに入ってなかった名曲「Wir streiken」。「僕らはストライキをする/機械は止まる/勝利を手にするまでストライキする/僕らは闘う/工場はぼくらのもの」。歌詞からしてあまりにもストレートすぎるアジソング。その他の選曲は、1stから2曲、2ndから1曲、3rdから3曲、4thから1曲。このアルバム、タイトルは「セレクション 1」になっているが、その後TSSはアルバムを1枚出して解散。「Auswahl 2」が出る事はもうないだろう(※2000年に30周年記念盤が出ましたが(ボーナスとして未CD化だった数曲が収録)、私はまだ入手しておりません)。
image Live II (1996)
1996年に突然出た2枚目のライブ盤。おそらくReiser追悼盤としての企画だろう。初期のものなど、探せば音源がもっと出てこないものだろうか。面子は、Reiser(vo)、Lanrue(g)、Funky Gotzner(dr)、Dirk Schloemer(g)、Martin Paul(key)、Kai Sichtermann(b)。ライブのデータは記載されていないが、曲構成や面子から、おそらく1975-6年頃の録音だと思われる。代表曲がずらりと並ぶ。今は亡きReiserの声に胸が熱くなる。客の盛り上がりもよく、「Kommen Sie schnell」では、客との掛け合いも熱い。箱入りの限定版には歌詞とイメージ写真掲載のブックレットがついている。

■関連cd
image DER TRAUM IST AUS oder Die Erben der Scherben (2001)
ドイツ語ロック、ドイツ語ヒップホップシーンのドキュメンタリー映画のサウンドトラックです。タイトルはTon Steine Scherben の曲名から。監督の談によれば、この映画には2つのテーマがあり、「ひとつはTon Steine ScherbenとRio Reiserへのオマージュであり、もうひとつは、ドイツにおける社会問題・環境問題の状況は以前と何も変わっていないということについての怒りと断念」だそうです。映画をみてないので内容についてはなんともいえません。当時のライブ映像などが記録されてたりするならば垂涎ものなのですが。日本で公開されることはないだろうし、ビデオ化されるのをひたすら待つのみです。 しかしTon Steine Scherbenほど社会闘争の最前線にいたロックバンドも少ないのではないでしょうか。「スクワッター運動西ドイツ赤軍、緑の党の誕生等々・・・Ton Steine Scherbenの歴史はドイツの歴史である」。サントラにはTon Steine Scherben自身の曲だけではなく、そのカバー曲を含め、様々なドイツ語バンドの曲が収録されています。Tocotoronic、Dritte Wahl、Element of Crime、Die Sterne、Neuer Glass、Nina Hagenなど、計18トラック。ライナーには各アーチストのコメントが記載されております。(2枚組アナログ盤も発売されてまして、こちらのほうはCDよりも曲が多く、全24曲だそうです。

■visual
image Rio Reiser: Live in der Seelenbinder-Hall Berlin/DDR 1988 (VIDEO: PAL) (1999)
Ton Steine Scherben のヴォーカルだった故Rio Reiserの、1988年東ベルリンでのライブビデオです。1988年といえば、東ドイツ崩壊直前ですね。ギターはTSS以前からずっと一緒に活動してきたR.P.S.Lanrue。Jenseits von Eden や、Halt Dich an Deiner Liebe festなどTSSの名曲も含めて全15曲。Alles Luegeで始まって、Koenig von Deutschlandで最高潮に盛り上がった後、Junimondでしっとり終わる(その後アンコール2曲)という流れは大方の予想通り。途中、インタビューも入ってます。こういうの見るとTSSのライブ映像も見たくなってきます。2001年にTSSのドキュメンタリー映画がドイツで公開されたようですが、どんな内容だったのでしょうかねえ。映像ソフト化を切に望みますよ。 このビデオ、もちろんPAL形式なので日本の普通のビデオデッキでは見れません。PAL対応のデッキで見てください。同内容の2枚組みCDも出ております。なお発売元のMoebius Rekordからは他にも、未発表音源とかHoffmanns Comic Teaterの音源とかも、少しずつCD化されております(というよりともともこのレーベルは名前から明らかなように、Rio Reiser関連の遺産を発掘するのが目的のレーベルでしょう)。

■book
image Ton Steine Scherben: Geschichten, Noten, Texte und Fotos aus 15 Jahren(David Volkesmund Produktion, 1998 [初版は1985])
必須!A4サイズ全170頁の中に、多数の貴重写真、TSS全曲の歌詞・楽譜、インタビュー、歴史、メンバー自身の語り等々がぎっしり詰め込まれています。これほど重宝する関連図書はありません。ドイツ語ができなくても写真を見るだけでも当時の雰囲気が伝わってきます。ともあれファンならばぜひ持っておきたい一冊です。表紙は一部がくりぬかれた変形表紙。破れそうでちょっと心配。
image Rio Reiser, Koenig von Deutschland (Kiepenheuer & Witsch, 1998 [2版])
  死後に出版された全300頁に及ぶRio Reiserの自伝ですが、Hannes Eyberという人が執筆協力しています。実はまだ全部読んでないのでなんともいえませんが、お値段は16.90 DMとお手ごろですので、ドイツ語が読める方、また勉強中の方は手にとってみてはいかがでしょうか。
image Kai Sichtermann , JensJohler & Christian Stahl, Keine Macht fuer Niemand (Schwarskopf & Schwarzkopf Verlag, 2000)
ついに出た!といわんばかりのTon Steine Scherbenの本格的伝記です。共著にはTSSのベーシストが加わってます。全300頁以上のまさに決定版。1970年から1985年まで、年代を追いながらTSSの始まりから終わりまでを詳細に描いていきます。合間合間には関係者のインタビューを収録。表紙は3rdアルバムのジャケ写真と同じものですが、そこに映っている全員の名前がページ裏に記されてます。TSSはただバンドのメンバーだけから成っているのではなく、そのほか多くの仲間たちが織り成す共同体ともいえるものだったのですね。まさに時代の申し子でした。巻末には詳細なディスコグラフィーおよび全曲リスト、ライブリスト付き。

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